「惡の華」「血の轍」など、爆発的な心情描写が描かれる名作を世に出してきた奇才漫画家であり、新たな漫画賞「スペリオール ドキュメントコミック大賞」の審査員も務める押見修造
そんな押見先生の描く「おかえりアリス」7巻(最終巻)の感想、考察や見どころを書いていきます
かなりマニアックな部分も読解していくので、7巻をすでに読んだ方にこの記事を読むことをおすすめします!
前巻では、亀川洋平くんが亀川を切るということがありましたが、物語はどう動くのか!
では、行ってみましょーーー
「おかえりアリス」7巻(最終巻・最終話)の感想・考察・レビュー【ネタバレ・完結】
いやいやいやいやいや、終わっちゃったよ!
10分もかからないで読み終わっちゃいました
流れるような最終巻でしたね
性欲と恋愛、どちらにも当てはまれない慧ちゃんがどうなるのかということでしたが、最終話(とあとがき)を読んでも、1回目では飲み込めず…
何回か読んでみて、初めて少しずつ意味が分かっていったので、7巻の重要な部分をピックアップしながら考えていきたいと思います
さよならと断髪
三谷のさよなら
まずは、三谷との決別
「おんなだって降りられるよ」という言葉に対して、
三谷のハッとする表情→涙→さよなら
一般的な人の反応ですが、この流れが面白かったです
誘いに乗りたい気持ちを、さようならが上回った感じですね
「いやいや、むりむりむり」となったわけです笑
慧ちゃんから三谷へのキスも、1話のシーンと重なる描写です
ただ、ニュアンスがちょっと違います
1話は、感情が動くかの確認するためのキスでしたが、36話のキスは降りることへの誘いです
(このシーンでの「降りる」は、性を意識しない昔の状態への回帰とします)
そして、阿野さんは天使ですね!
何回想いを受け止めてくれてるんだか!
慧ちゃんの断髪
さて、慧ちゃんの断髪に移ります
これまでは、男を降りると言いつつも女になることで、性の束縛からは逃れられていなかった慧ちゃん
女性のアイデンティティである髪をバッサリ切るというのは、女を降り、性の呪縛から開放されることと考えられます
洋ちゃんが脳内で見た女性でも男性でもない慧ちゃんの再現ですね
髪を切る行為は、ある種の儀式でもあります
切るという行為は、6巻の最後に洋ちゃんがしたこととも繋がっています
切る=覚悟と考えることもできますし、これまでの自分から離れるという意味の切るでもありますね
フュージョンシーン
バトル漫画の最終回みたいな、AKIRAみたいな場面ですね
注目すべき発言は、「はじめはここにいた」と「なんどでも」
これまでの流れからすると、はじめ = 5歳くらいまでの話です
幼稚園の話が7巻にもありましたし
ただもうちょっと妄想解釈すると、生まれる前の世界の話でもあるのかなと感じました
精子卵子の話と言い換えても良いかも知れません
「からだをぬごう」から人間の形すらなくなっていたからです
「なんどでも」というのは、あとがきと一緒に読めます
性のあり方を模索し続けることですね
オチ・結末について
Brand new day!
希望に満ち続けた最終巻でした
「血の轍」もそうですが、まぶしいほどの光が降り注ぐポジティブな結末でしたね
ただ、ある意味ごまかしがあることも否めないハズ
それは、どういう性の降り方をしたのかが不明確ということです
わかりやすいものを求める人からは、ブーイングを受けそうなオチの筆頭ですね
少し考えると、洋ちゃんが最終話で何回も「慧ちゃん」や「好き」とハッキリ言っていることや、
フュージョンシーンで不合理な現実を選んだ理由「君に会いたいから」から、
両思い→互いの性を肯定しながら好きということでしょう
細身のパンツに大きめのワイシャツという慧ちゃんの服装や髪の毛の長さから、慧ちゃんの女性らしさは感じられます
ただこれが例えば性転換したのか?
男の心のまま洋ちゃんを愛しているのか?
などについては言及を避けています
曖昧なまま相合い傘の中にいる2人
個人的に一つ言いたいのは、40話(最終話)はどうでもいいということです
それぞれが、現実を選び、生き方を模索し続けることを決めたことが大切だと思っています
この漫画にとっても、キャラクターにとっても、押見修造にとっても
曖昧ですみません!でも、それが押見先生の意図だと思っています!
「おかえりアリス」全巻通しての感想
漫画としては、単純に、すごいです
たいした事件もなく、デビル三谷と慧ちゃんの魅力だけでよくこんな面白い漫画ができるなと感じました
この絵じゃないとできないですね
最初は爆発的なインパクトで始まり、後半は葛藤に向いていた印象です
人間関係と葛藤のプロフェッショナルである押見修造を感じました
葛藤の分霊箱
というのも、6巻の感想でも語っていたのですが、キャラクターは押見修造の分霊箱ということが7巻のあとがきを通しても書かれました
慧ちゃん→性への憧れ・理想
洋ちゃん→性への罪悪感
三谷→性の支配
阿野さん→自己嫌悪
このように、葛藤を人で分けていると思います
テーマ「性」について
他の作品に比べても、人を選ぶと感じました
性について葛藤してきた人でないとわからないものがあります
性を強く意識し続けた人のみが、読解できる作品なのかも知れません
これまでの押見作品では性のテーマの片鱗は見えつつも、性一本のテーマはありませんでした
思春期プロの押見先生にとって、性は避けられないテーマであったのでしょう
しかもそれを未だに引きずり続けているというのは、もう漫画家としてあっぱれです
内にある強い葛藤がエネルギーになって昇華される、苦しくも強い芸術家
カッコいいです
おかえりアリスのタイトル回収について
「おかえりアリス」の「おかえり」は、性の考え方において常に新しい場所を探す
その新しい場所で、自分を暖かく迎え入れる意味のワードだそうです
タイトルを決めた最初には考えてなかったとあとがきで書かれていたのが面白いですね
アリスは、不思議の国のアリスからで、不思議の国→夢の国→幻想から来ていると思われます
性の存在しない幻想から性のある現実に戻ってきたことで、「おかえり」というタイトル回収でした
いいタイトル!
押見修造という男について
またも、変態的な葛藤へのこだわりを見せつけた押見先生
感情の揺れ動き、苦痛への感度がハンパじゃないです
ミスターデリケート、鬼才葛藤家、体重全載せおじさん
いくらでも異名を付けられそうな漫画家ですね
いつ葛藤に押しつぶされて連載が止まってもおかしくない中、2つの作品を同時連載、本当に祝完結です
ありがとうございました!
押見先生のエピソード集↓
まとめ:「おかえりアリス」7巻(最終巻)の感想・考察・レビュー【ネタバレ・完結】
以上、「おかえりアリス」7巻の感想でした
それぞれがプラスの方向へ進んでいく終わり方でしたね
押見作品はオチに深い意味をもたせ過ぎないようなものが多い気がするので、結果より過程を楽しむべきだと思います
それが葛藤というものでもあると感じました
次回作があるのかないのか、どうなるにせよ、押見先生には休んでいただきたいですね!
(何様なんだ)
ではまた
前巻の感想・考察はこちら
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